教育工学研究の方法
本ページの内容は、清水康敬,中山実,向後千春編著:教育工学研究の方法,ミネルバ書房を参考資料として作成しています。
教育工学の定義
坂元は以下のように定義している。
教育に関連した操作可能なすべての諸要因、すなわち、教育目標、教育内容、教授目標、教授内容のような教育情報、教材・教具、教育機器のような教育媒体、教育方法、教授方法、教育環境、児童・生徒の行動、教師の行動やそれらの集団編成、ならびに以上の諸要因の関係を分析、選択、構成、制御して、教育効果を最大ならしめることを、実証的に、そして実践的に研究する工学であり、教育行財政、学校学級管理経営や知育、訓練、カウンセリングなどの教授活動、および教育情報の収集、整備、利用、時間割作成、出欠成績などの教務のような実践領域において、工業技術、情報科学、理学、行動科学、人間工学の成果を縦横に利用して、教育の効率化をはかる研究分野である。
簡略化していうならば、
教育に関連した全ての諸要因を分析、選択、構成、制御して、教育効果を最大限にする仕組みを実証的・実践的に明らかにし、実践領域において様々な分野の成果を利用して、教育の効率化を図る
ということになる。
教育工学研究者の関心領域
学習者と学習プロセスの変化 → 基礎研究
学習は技術的なプロセスと資源によって促進できる →学習を促進する技術的なプロセスと資源を生み出す(開発研究)
学習者と学習プロセスの変化はパフォーマンスの変化によって測定できる → 基礎研究
明らかになった知見は現場で論理的実践として活用されるべきである
得られた知見を実践現場でどう活用するか → 実践研究
研究の中に「開発的」「実践的」要素が幾分入るのが教育工学である。
特に近年の教育工学研究者の興味は、
現実の文脈の中での教育実践
現場でのシステム的・道具的介入がどのように教育を変容させるか
という点に向いている。
教育工学研究者の認識論
論理実証主義
研究者は観察者である(客観的な存在になれる)
研究対象は因果律から構成される
反証可能な仮説をたてることができ、仮説の成否は観察や実験で評価できる
因果律を明らかにし、対象の予測と制御をする
→データの一般性を重視。脱文脈化。基礎研究で多く見られる。
社会構成主義
客観的な世界は存在しない
研究対象は多数の原因と多数の結果が混在する世界にある
その世界に参加することで知識を得ることができる
その複雑な世界をその中の参加者がどのようにとられているかを明らかにする(ナラティブ)
→データの一般化を否定。背景と文脈を重視。実践研究で多く見られる。
研究上の視点を決める
研究対象と範囲を確定する
対象の範囲の決定が重要。研究の位置づけ。
研究者の位置付けを決める
第3者的な存在か、実践者の一人なのか、中間なのか?
研究のステージを決める
アイデアや仮説なのか、仮説からデータを集めているのか、実証研究としてランダムフィールドトライアルしているのか
認識論を確定する
論理実証主義か社会構成主義か、、、
研究手順
一般的には、以下の7ステップを踏むことになる。
トピックを選ぶ
研究課題を見極める
文献研究を進める
リサーチクエスチョンを決める
研究デザインを決める
方法を決める
データ分析手続きを決める
ただし、実践的な学問であるゆえ、アプローチと研究方法は多様である。
研究対象
教授方略
ある特定の教授法に絞ってその効果を検証する研究。実験計画法により評価。
教育テクノロジー
ICT利用により拡張された学習環境に関する研究。技術、システムの高度化により要因となる変数が多くなり評価が困難。
実践を指向したプロトタイプ開発と現場でのテストを繰り返しながら実践を作り上げていく。データはできるだけ取る
IDモデル
ADDIEモデルの開発、利用、妥当性の研究
設計と開発
・道具の設計と開発 ・・・ 文脈に依存した知見
・設計と開発のためのモデル研究 ・・・ 一般化された知見
実践性による分類
in vitro
厳密に条件統制された実験室実験による研究やプロトタイプ開発。個人単位の反応やシステムの性能実験
in vivo
ある程度条件統制されつつ、本来適用すべき教育の文脈の乗せた研究。統制群あり。
in situ
実際の教育現場に、考案されたプログラムやシステムを導入し、その介入効果を検証するデザイン実験、アクションリサーチ。統制群なし。参加者の特性や多様な指標から介入の効果を検証する。
調査
介入なしにそのままの状態を調査する。キーとなる変数や介入ポイントを探る
1→3になるにつれて従属変数の数は多くなるため